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Leaf&Key仮想戦記〜ひとりぼっちの戦場編〜

1 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:32 ID:f++AOMVJ
過去スレ

Leaf&Key仮想戦記〜永遠の遁走曲篇〜
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=989927173

Leaf&Key仮想戦記 〜誰彼の葉鍵編〜
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/974/974402008.html

Leaf&Key仮想戦記第一部 (2ちゃんねる葉鍵板リレー小説置き場)
http://nanasei7.tripod.co.jp/

本文は>>2から

2 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:33 ID:f++AOMVJ
 温暖な大阪にも、冬はそれなりの厳しさでやって来る。
 空は寒さに張り詰め、 力を無くした太陽は灰色の雲に押し潰され、薄くぼやけた陽光を
届けることしかできない。
 暗く沈んだ空気を振り払うかのように、人は皆努めて精力的に働きまわる。
 天満橋に籍を置く株式会社ビジュアルアーツのビルの一角、ソフトハウスkeyの開発室も
その例に漏れず、冬の乏しい熱量を補って余りある活気で日々の業務をこなしているように見えた。

 PCの故障を防ぐために禁煙の徹底された開発室の空気は常に変わらぬ清潔さを保ち、かき乱す
騒音も全く無い。キーボードを叩く音だけが響き、無機質なリズムを刻む。滞りなく滑らかに
業務を進めているかに見える開発室の中、麻枝准は独り頭を抱え机に突っ伏していた。
「お約束のように仕事が進まん……どうして俺はいつもこうなんだ……」
 心の鼓動にも似た規則正しさで部屋に響くキーボードの打鍵音が、焦燥と苛立ちを増幅させる。
湧き出てこない言葉、飛び立てないイマジネーション。萎えた翼を懸命に羽ばたかせても、想像力
は空を舞ってはくれなかった。
「気分転換だ、ここは」
 今日何度目の気分転換だろうか、麻枝は席を立ち、大きく背伸びをした。開発室を見渡すと、皆
黙々と己の作業をこなしているように見える。普段はふざけた振る舞いが目立つが、いざという時
には実に頼りになる奴らだ。いつもふざけっ放しの自分を除いては。

3 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:33 ID:f++AOMVJ
 自分の席を離れ、開発室を横断する。作業に行詰まった麻枝が気分転換と称して開発室をうろつく
のはいつもの事だ。突如ギターを弾きながら叫び出したりしない限り、麻枝に目を向ける者はいない。

 近づいた開発室の片隅の机で、二人の男が議論を交わしていた。
「……ここで伊吹パートと藤林パートとを交差させて、分岐入れましょうか」
「分岐だけではなく、視点の変更もやってみませんか?」
「それだとイベントレベルでなく、文章レベルで合わせないと噛み合いませんね」
「魁さんはもう、プロットは完成しておられますよね? 私に見せて頂ければ文章合わせはやりますよ」
「あのー」
 膝を突き合わせての論議に、割り込むように声をかける。議論中の二人、涼元悠一と魁はその声の主の
元へ振り返ると訝しげな視線を向けた。
「あ、どうされました、麻枝さん? 何か打ち合わせしなければならない事ができましたか?」
 悪意は全く無いとは言え、ディスカッションには程遠い仕事振りの麻枝には酷な質問だった。
量も質も優れたシナリオを安定したペースで書き上げる能力を備えた涼元と魁がkeyに参加するように
なってから、同じシナリオ班の麻枝の仕事の遅さがとりわけ目立つようになってしまった。
 麻枝とてその状況を克服しようとしなかった訳ではなく、今までの人生の読書量を一年で上回る勢いで
書物を読み漁り、朝は誰よりも早く仕事を始め、誰よりも遅くまで開発室に残り、懸命にシナリオを
書き上げようと努めた。
 だが、文章の技術において職人の域に達している涼元と魁に伍する事は一朝一夕に達成できる目標
ではなかった。

4 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:34 ID:f++AOMVJ
「い、いや。特に話し合わなきゃならない事は無いんですけどね。ちょっと気分転換なんてどうかなー、
と思って……」
 提案はあっさりと却下される。
「すいません。今は魁さんと打ち合わせをしているので、気分転換は一人でして頂けないでしょうか?」
 そう言いながら、涼元は壁に立てかけてあったギターを手に取り、麻枝に手渡した。
「ギターを弾いていればいいアイデアも浮かんできますよ、きっと」
 それだけを伝えると再び魁の元へ向き直り、議論の続きに没頭し始めた。

(……全く何だ、あの態度はっ! 俺が邪魔者みたいじゃないか。いくらシナリオが上手だからって、
あれじゃまるで……)
 涼元に手渡されたギターのネックを握り締め、胸中で毒を吐きながら足音荒く廊下を歩く。
「AIR」のシナリオ執筆作業での涼元の働きはそれまでのkeyのシナリオライターの常識を覆すものだった。
 完成度よりも勢いを。論理よりも情熱を。荒削りで、ともすれば青臭い少年の自分語り、と罵られかね
ないkeyのシナリオを精緻な知性の光で照らしたのは確かに涼元だった。麻枝自身の中でさえ茫漠として
つかみどころのないイメージを言葉で編み直し、堅固な物語世界を構築する。「AIR」の企画は確かに麻枝
の手によるものだ。だが「AIR」を育み、ユーザーの元へ送り出した本当の養父は涼元だった。
 まだ入社して日が浅い、と言う事もあって麻枝の補佐に徹してはいる。だがその気になればいとも
容易く麻枝抜きで企画を立て、シナリオを書き上げ、見事な作品を作り上げるだろう。
 その時自分の居場所は、果たしてkeyにあるのだろうか。

5 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:34 ID:f++AOMVJ
(……まぁ俺の仕事はシナリオだけじゃないしな。俺には音楽がある。エロゲー界のポール・マッカートニー
と呼ばれるこの麻枝准を甘く見るなよ)
 勿論、誰もそんな風に麻枝を呼びはしない。独りで勝手に思っているだけだ。
 開発室の隣には音楽作業に使う様々な機材の置かれた専用の部屋がある。keyの音楽班はここに篭り、
より美しい音楽をユーザーの耳に届けるために日々鍵盤に向い、シンセサイザーと格闘する。
 防音材を使用したドアを開けると、予想通り折戸伸治が作業を行なっていた。
 高性能ヘッドホンの伝える音の動きに耳を済ませながら、繊細な手付きで鍵盤に触れる。驚くべき
感度で立ち上がるパルス波高を壊れ物を扱うようにそっと変化させていく。
 keyの魅力の半分を担う、と言われる音楽の世界。その創造主がここにいる。
 麻枝は雑音を立てないように部屋に踏み入り、ドアをゆっくりと閉めた。

6 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:35 ID:f++AOMVJ
「誰だ?」
 折戸の常人離れした聴覚は、ドアの閉まるかすかな音も聞き逃さなかった。ヘッドホンから耳を離し、
椅子を回転させ、音のした方角へ視線を向ける。
「何だ、麻枝か。どうした? 何か用でもあるのか?」
 集中を妨げられた不快感を少しだけ表に見せながら、麻枝に問う。
「いやー、特に用事があるって訳でもないんですけど。折戸さんの調子はどうかな、と思って」
「ふん、他人の事を心配する前に自分の心配をしろ。どうせシナリオが進んでないんだろう? お前
がここに来る時はいつもそうだ」
「曲作っているといい話が浮かんでくるんですよ、俺は。折戸さんも知ってるでしょう?」
「まぁ涼元さんがいるから大丈夫だとは思うけど、あまり迷惑掛けるなよ」
 また涼元さん、か。ちくりと胸に刺さった棘に気付かない振りをして、会話を続ける。
「それより、また曲考えたんですよ。今から聴いてくれませんか?」
 そう言ってギターを構えて弾き語りを始めようとする麻枝を、折戸は遮った。
「悪いな、今は自分の曲作りで忙しいんだ。後にしてくれ」
 さらに付け加える。
「それからな、その曲を『CLANNAD』に使うんだったら、麻枝がちゃんと編曲もしろよ。俺はもう
手は入れないからな」
 予期せぬ発言に、麻枝は驚きを隠せなかった。慌てた口調で、折戸を問いただす。
「ど、どうしてですか? 折戸さんが編曲してくれないと外には出せませんよ」
「お前なぁ……」
 ため息を交え、折戸は応えた。
「そりゃ『Kanon』の頃はお前もまだ機材の使い方も良く分かっていなかったし、時間も無かったから
手伝ったけどな。もう大丈夫だろ、独りでも」
「そんな無茶な……」
「無茶もヘチマもない。どうしてもできないんだったら、戸越に頼め。俺も忙しいんだよ。色々とな」
 それだけ言うと、麻枝に背を向け再び作曲作業に没頭し始めた。

7 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:35 ID:f++AOMVJ
 悄然とした面持ちで、廊下を歩く。最近折戸さんは特に自分に冷たい気がする。他人に疎まれる事
を怖れていてはこの仕事はやっていけない、と覚悟は決めてはいる。だが苦楽を共にした同僚に冷
淡な仕打ちを受けるのは、さすがに堪えた。とりわけ作曲者としての麻枝をここまで育ててくれた
師匠でもある折戸には。
 それに折戸は最近keyの枠に留まらず、精力的に音楽活動をこなしている。もしかするとkeyを離れ、
独り立ちをしようと考えているのかもしれない。
 折戸のいないkeyなど想像する事もできない。麻枝は自分の不安をくだらない杞憂だ、と一笑に
付してくれる人を求めた。

8 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:37 ID:f++AOMVJ
 腕時計を見ると丁度三時だった。気分転換と称したサボタージュもそろそろ限界だろう。開発室
に戻りドアを半分開けると、室内から楽しそうな声が漏れてきた。
「ケーキ作ってみたんですけど、涼元さんも一つどうですか?」
「いたるちゃんの手作りケーキでしゅ。味の保証は出来ませんが、話のタネに食べてみるぞなもし」
「体の保証もできないわね」
「ちょっとしのり〜、人聞きの悪い事言わないでよ」
「あら、『自分一人で食べるのは怖いから、他の人も道連れに』って言ってたのはあなた本人よ」
「そんなこと言ってないでしょっ。一人で食べきれないから、皆にも食べてもらおう、とは言ったけど」
(あいつ、そんな器用な事出来たっけ?)
 少しだけ開いた扉の隙間から、その光景を見詰める。

「ちょ、ちょっと。お二人とも落ち着いてください」
 今にも口喧嘩を始めそうな二人を、涼元は慌てて制していた。
「勿論、私は頂きます。樋上さん、どうもありがとうございます」
「あ、食べてくれますか? 良かった……」
「しのり〜さん達も一緒に食べられますよね?」
「……涼元さんがそう仰るのなら、頂きますけど」
「挑戦なくして進歩はないもじゃ」
(食う食う、俺も食う!)
 扉を開け、中に入ろうとした瞬間だった。
「あら、丁度人数分しかないわね」
 ずざざーっ!
「何か音がしなかった?」
「いや、何も聞こえなかったけど」

9 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:38 ID:f++AOMVJ
 廊下に突っ伏したまま、しばらく麻枝は立ち上がれなかった。やがてよろよろと体を起こし、再び
ドアの隙間から中の様子をのぞき見る。涼元の席を中心に、いたる達も椅子で輪を作り談笑していた。
「上手に出来ていると思いますよ、樋上さん。とてもおいしいです」
「そうですか? ありがとうございます、あまり自信無かったんですけど」
「確かに食べられない味ではないわね」
「しのり〜、あなたねぇ」
「冗談よ。あなたにしては上出来だと思うわ」
 穏やかな空間が、緩やかな時の流れにたゆたう。そこにいるはずの人がいなくとも、成立する暖かな
世界。そんな世界の一員のつもりでいる事は、愚かな妄想だったのだろうか。
「涼元さんはもうkeyには慣れましたか?」
 誰よりも長く一緒にいたはずの人が、楽しそうに口を開く。自分には決して見せた事のない表情で。
「えぇ。皆さんも良くしてくれますし、シナリオを書くのはやっぱり面白いですし」
「涼元さんみたいな方がいて下さると、私達も安心して仕事ができるんですよ」
 彼女が涼元に向ける憧憬のまなざしが、理由も無く苛立たしい。飛び出したくなる衝動を懸命に堪え、
ドアのノブを汗の滲んだ手で握り締める。
「そうね、涼元さんみたいな人は今までうちにはいなかったしね」
「社会不適合者ばかりでしゅ」
「特にシナリオ班は揃いも揃って問題児だったから、大変だったわね」
「ちょ、ちょっとしのり〜。それは言い過ぎだよ」
(そうだ! いいぞ樋上いたる!)
 部屋の外側から誰にも届かない喝采を送る。そんな麻枝の存在を知るよしも無いいたるが言葉を続ける。

10 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:38 ID:f++AOMVJ
「でも、シナリオを書く人が皆麻枝君みたいな人ばっかりだと思ってたのは、誤解だったね」
「……純度の高い才能に、奇行はつきものですから」
 何とかフォローをしようとする涼元に、しのり〜は反駁する。
「涼元さんはまだ麻枝君の本性を知らないから、そんな事が言えるんですよ。毎日毎日ウンコフォルダを
貼り付けられる身になって下さい。二十代も半ばを過ぎて、ウンコですよ」
「おまけにそんな事ばかり繰り返して、仕事がちっとも進まないでしゅ」
「うん……それに気分でコロコロ発注も変えちゃうし。やっぱり困るよね」
 既に欠席裁判の様相を呈し始めた午後のお茶会に、唯一の弁護人も責務を放棄したらしい。

「その辺は私が出来る限り手伝えば何とかなるんでしょうけど……」
「ダメですよ。涼元さんがそうやって甘やかしている間は、ずっと麻枝君はあの調子です。一度ガツン
と突き放しちゃった方がいいですよ、絶対」
「麻枝君、仕事ばかりで最近疲れてるみたいだし、涼元さんに全部任せてしばらく休んだ方がいいかも
しれないね」
「そうしてくれれば、あたし達の仕事は楽にはなるわね」

11 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:39 ID:f++AOMVJ
 ドアを叩き付ける音が開発室に響き渡る。
「誰っ?」
 しのり〜は素早く立ち上がり、ドアへと駆け寄る。ドアを開け、廊下に飛び出し周囲を見回すが、
そこに人の姿はなかった。
「何、これ?」
 足元に紙切れが落ちてある。くしゃくしゃになってはいたが、ぴんとした折り目は、その紙が
持ち主の手を離れてからまだ間もない事を伝えていた。
 拾い上げ、紙を開く。そこに書かれている文字に、しのり〜は微かに眉を曇らせた。
「どうしたの? しのり〜?」
「誰かいたんでしゅか?」
 同僚が駆けつけてくる。
「うぅん、誰もいないわ。あたしの勘違いだったみたいね」
 彼女らに無用の心配をかけまい、とその場で嘘をつく。誰にも見つからないように、手の中の紙切れ
をジーンズのポケットにしまいこんだ。
『うんこ』と一言だけ書かれた、その小さな紙切れを。

12 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:52 ID:DYniAmbq
マジ面白い&仮想戦記復活おめ。

13 :名無しさんだよもん:01/12/19 15:43 ID:VDAHj8ze
久々に名作の予感・・・
とりあえず続ききぼーん。

14 :名無しさんだよもん:01/12/20 03:53 ID:kvny4DjU
おお、復活してる。
今回のもなかなか面白いです。麻枝の悲哀がなんとも。
今度こそdat落ちさせないよう頑張ります。

15 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:04 ID:gjA4WhbZ
 鍋が湯気を立ててことことと踊っている。こたつに足を突っ込んだまま、目の前の鍋に
箸を差し入れる。気泡が生じては消えていく鍋の水面から豆腐を取り出し、器の中に移
した。
「自炊するのも久し振りだな……」
 湯気を立てる豆腐にふぅふぅと息を吹きかけ、麻枝准は独りごちた。
 カーペットの生地が見えないほどに散らかった床、洗濯していない服が無造作に脱衣所
に放り出され、パソコンの置かれた机の上は本もCDもギターも一緒くたになって無秩序な
様相を呈している。無精な独身男性のサンプルケースのような部屋だった。
 管理人が見れば卒倒しそうな部屋の中、麻枝は鍋に向かう。
「鍋を食っても一人。麻枝ちん友達いないから、にはは」
「……って、二十を過ぎた大の男が『にはは』って何じゃーっ!」
 叫びは暖房の効かない部屋に吸い込まれ、何も返ってはこない。
「アホか、俺は……」
 行為の空しさを自覚した麻枝は、帰りにコンビニで買ってきた缶ビールの蓋を開け、
一気に飲み干した。麦芽の発酵した味が味覚を刺激し、炭酸が喉を焼く。アルコールを
摂取するのは久し振りだった。元々酒に強い方ではないし、酒を飲んだ翌日、仕事に
影響が出る事を怖れたからだ。

16 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:05 ID:gjA4WhbZ
「何だってんだ、ったく」
 誰に向かう訳でもない愚痴をこぼしながら、豆腐を口に放り込む。まだ熱い口の中の
内容物をビールで流し込んだ。熱した豆腐と炭酸交じりのアルコールとが、同時に胃を
刺激する。慣れない刺激に鳩尾を抱え込みたくなると、それがトリガーとなって今日の
出来事をフラッシュバックさせた。

「涼元さんも、折戸さんも、いたるも一体何だ。まるで人をkeyのお荷物みたいに」
 確かに自分は奇を好む所があり、それに周囲の人間が巻き込まれ、迷惑している事
は否定しない。だが仕方が無いではないか。人見知りの激しい麻枝は、過剰な奇行で
相手を半ば呆れさせる事でしか人と親しくなれないのだから。

「仕事はちゃんとやってるじゃないか、俺だって……」
 そう言いながらも不安になる。keyは今では18禁ゲーム業界でトップレベルのセールス
を記録する、最大手の製作チームである。keyをそこまで大きく成長させていく過程で、
麻枝の存在は非常に大きかったはずだ。誰にも真似できない、と自負のできる発想力は
空を舞うkeyの翼であり、日々研鑚を怠らず養ってきた構想力はkeyを支える大樹の幹
だ。それは砂上の楼閣のような傲慢な思い込みではなく、堅牢な土台の上に築き上げた
自信だったはずだ。

17 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:06 ID:gjA4WhbZ
 だが、それも今は脆くなり始めている。keyは規模を大きくしていく過程でその開発力
を飛躍的に向上させてきた。多士済済な人材、潤沢な開発予算、理想的な製作環境。
それらは例え中心スタッフの一人や二人を欠いてもなお優れた作品を作り得るだけの
底力を持っているのかもしれない。麻枝がおらずとも、何ら支障をきたさないほどに。

 駄目だ、飲めもしない酒なんかに手を出すからだ。弱気になっている。
 麻枝はこたつに足を突っ込んだまま、カーペットに仰向けに転がった。ほこりを被った
蛍光灯が飽きもせず営々と光を放ち続けている。壁に引っ掛けた円盤型の時計が規則
正しく音を立て、時間を秒単位で切り取っていた。
 血中アルコール濃度が上がってきているのが分かる。天井がぐるぐると回り、思考
の輪郭が曖昧になっていく。

 まぁ、いい。まだまだ俺がいなけりゃkeyはやっていけないさ。「CLANNAD」でも皆を
あっと言わせてやる。エロの書けないへっぽこライターとも言わせない。あれは企画に
合わせていたからだ。本気の俺を甘く見るなよ。鍵っ子のティッシュ消費量を二桁アップ
させてやるぜ。

 頭の中に一枚、また一枚と薄い皮膜を貼り付けられていく錯覚の中、ぼんやりとした
楽観に身を任せる。急速に襲い掛かってくる睡魔に意識は刈り取られ、眠りの世界に
引きずり込まれていった。

18 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:06 ID:gjA4WhbZ
 目覚めは、最悪だった。こたつで眠ってしまったため、喉はからからに渇いている。
風邪の予兆のような気だるさと重苦しい頭痛に、目覚めてからしばらくは起き上がる事
もできなかった。
「げほっ……」
 悪い空気を吐き出すように、乾いた咳をする。のろのろとした動作でこたつから
這い出し、洗面所に向かった。一晩でもう目立ち始める髭を剃り、ぼさぼさに乱れた
髪に櫛を通す。苦味のきつい歯磨き粉で歯を磨き、冷水で顔を洗うと、ようやく目が
冴えてきた。

 顔を拭き、部屋に戻ると時計は出社時間に殆んど間の無い時刻を示していた。
手早い所作で身支度を整えると、床にひしめく障害物を飛越えて玄関口へ向かう。
「よし、今日も一日頑張るぞ」
 自分を奮い立たせるために、敢えて激励の言葉をつぶやく。アルコールの抜けきって
いない体に違和感を覚えつつ、麻枝は外に飛び出した。

19 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:07 ID:gjA4WhbZ
「どう言う事ですか、それはっ!」
 激昂した麻枝の叫び声が、key開発室に響き渡った。聞く者をたじろがせる強い口調の
麻枝に対して、彼の雇用主である馬場社長はその立場の優位を再確認するかのように
鷹揚に応える。
「言うた通りや。keyの新作は初めから全年齢対象で発売や。18禁からは撤退してもええ。
もう書けもせんエロ書かんでもええんや。麻枝、お前は俺に感謝してもええんちゃうか?」
「誰が書けないと言った! そもそもそんな大事な事を俺達の意見も聞かずに一方的に
決める事が許されるとでも思っているのか、あんたは!」
 麻枝の追及に、馬場社長は僅かの動揺も示さない。笑みさえ浮かべ、麻枝に言う。
「意見はちゃんと聞かせてもろたんやけどな。その上での結論や。これからお前らは
18禁でゲームを作らんでええ、ってのはな」
「馬鹿馬鹿しい、こいつらがそんな事に賛成する訳ないだろうが。でたらめも大概にしてくれ」
「ならお前が直接聞いてみたらええんちゃうか、『俺達は18禁から手を引くべきなのか』ってな」

20 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:08 ID:gjA4WhbZ
 開発室にはkeyのメンバーが全員、そして馬場社長が在室していた。麻枝は周囲を見回し、
仲間達に視線を向ける。彼らは皆一様に沈黙し、中には麻枝と目を合わせようとしない者
さえいた。苛立たしげに、麻枝は詰問する。
「お前ら、本当にそれでいいのか? 相手が社長だからって、遠慮する事なんか何もない
んだぞ。俺達は俺達の本当にやりたい事をやればいいんだ。言いたい事を言えばいいんだ」
 麻枝の言葉に、誰も応えようとはしない。なおも何か言おうとする麻枝を、馬場社長は
制する。
「お前、まだ分かっとらんみたいやな。俺が強制したんやない。こいつらが自分でそう
したい、言うたんや。もう18禁ではやりたない、ってな」
「嘘をつくなっ! そんな事をこいつらが言う訳ない!」
「……麻枝さん」
 涼元が閉ざしていた口を開く。訥々と、だが強い口調で麻枝に反論する。
「keyのファンの殆んどはもう、そんなものは求めてはいないんです。『18禁にしないと
売れない』んじゃないんです。『18禁では売れない』んです。今のkeyは」
 涼元の言う事は真実だ。18禁のフォーマットでありながら、極限にまで18禁描写に
力を注がずkeyはここまでやってきた。麻枝もその状況は不自然だとは思っている。
だから、今こそ自分達は証明すべきなのではないのか。
 keyは18禁ゲームの製作集団であり、その事は負い目ではなく、誇りである事を。
「まぁ、そういう事や。涼元君はその辺よぉ分かっとるさかい、一番に了承してくれたで。
折戸君らはどっちでも構へんしな」
「……音屋は18禁だろうが、そうでなかろうがやる事は変わらないんだよ、麻枝も分かる
だろ?」
 すまなさそうに、折戸は麻枝に言う。

21 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:08 ID:gjA4WhbZ
 孤立無援の戦況で麻枝が最後に頼ったのは、やはり一番長く同じ時間を重ねてきたはず
の人間だった。
「でもグラフィックは別だ。全年齢にして一番割を食うのはグラフィックだ。そうだろ、
いたる?」
「……うん」
 麻枝の視線を逃れるように俯き、下を向いたまま樋上いたるは応える。
「だったらっ」
「お前も本当に分からん奴やな、麻枝。樋上君が18禁描写ようやらんのは、お前が一番
分かっとるんちゃうんかったんか?」
 鋭さをやや増した馬場社長の言葉が、麻枝から発言権を奪い取った。足元が根底から
崩れ去っていくような感覚に襲われながらも、麻枝は懸命に言葉を探す。
「いたる……お前、本当に」
「……ごめんね」
 力が抜けた。自分が何も分かってはいなかった事実を突きつけられ、その場にへたり
込みたい衝動を抑えるのが精一杯だった。
「分かったか、麻枝。keyの面子で18禁に固執してるのは、お前一人や。お前が矛を収め
たら、皆丸ぅ収まるんや」
 駄々っ子をなだめるような馬場社長の言葉が麻枝に掛けられる。
「あくまで反対すれば、どうなりますか……俺は」
「そやな。集団の和を乱した廉でしばらくは自宅謹慎やな。代わりは涼元君にやって貰う
わ。頭が冷えるまで麻枝は休んどれ」
「集団の和。民主主義の基本は多数決、か」
 そう自嘲すると麻枝は自分の机に向かう。椅子に掛けてあったコートに袖を通し、
それまでの仲間達に乾いた口調で言葉を伝える。
「民主主義は柄じゃない。俺は降りる。あんたらの好きなようにやってくれ」

22 :名無しさんだよもん:01/12/20 09:09 ID:gjA4WhbZ
 一同の輪に動揺が走る。麻枝は無言でその輪に近づき、涼元のそばに立つ。
「麻枝さん……」
「涼元さん、keyをよろしく頼みます」
 そう言って、頭を深く下げる。それから一言も喋らずに、ドアのノブを回し部屋を出た。

 廊下を早足で歩く。
 もう二度とここを歩く事はないのかもしれない。何の感慨も湧いてはこなかった。
「麻枝君っ!」
 背中に聞き慣れた声が掛けられる。振り返った。
「麻枝君……」
 駆け寄ってきたいたるは、息を切らせて、しばらくは何も言えない。言葉を待った。
「麻枝君……短気を起こさないで。麻枝君までいなくなったら、もう……」
「いたる、涼元さんについて行け。あの人のする事に間違いはない。あの人ならkeyを
もっと高くへ運んでいける。俺がいなくてもな」
 何か言おうとするいたるに背を向け、再び歩き出す。後ろで何か叫んでいる声が聞こえる。
 聞こえないふりをして、ビルを出た。

23 :7つさんだよもん ◆ffU3G94s :01/12/20 13:00 ID:QRCqZ0u+
>>1
去年からずっと読んでました。あなたの書く鍵スタッフが本当好きでした。
つーか、惚れ直す勢いで。スレッド、また立ててくれて有り難う。嬉しい。
また書いてくれることが嬉しい。

……微妙に宣伝で申し訳ないのですが、今年の冬コミ、ONEスペースですが
仮想戦記&スタッフロワイアルのほん出します。ツ-01bです。
「ハカギマニアックス」つーコピー本で、その、絵とかないですけど。

内容は人物解説とか、スターフネタ二次創作とか。そんなかんじで。
がんばります。このスレも、がんばってください。

24 :名無しさんだよもん:01/12/20 13:04 ID:2qJANzIm
孤立無援の麻枝萌え。
今度は麻枝がマグロ漁船行きか?次回に期待。

あと書いた後はさげまわしてageた方がいいかも。
最近DAT落ちが早いから。

25 :7つさんだよもん ◆ffU3G94s :01/12/20 13:29 ID:QRCqZ0u+
>>24
てか、新作ageでしょうこれは。

26 :名無しさんだよもん:01/12/20 19:00 ID:S0L2xZd0
やっぱり、思う。
ハカロワでスタッフからキャラからずっと書いてきた背景には、
やっぱり何処かあなたへの憧れがあったのだなあ、と。
麻枝萌える。この孤立無援ぶりが最高。
まったく及ばない、くそぅ……。
素敵すぎるぜ、まんせー。

27 :名無しさんだよもん:01/12/21 01:09 ID:onH1pT1k
新作あげ。麻枝がカコ(・∀・)イイ!
でも、仮に本当に麻枝が鍵を辞めちゃったら、
たとえ他のスタッフが全員残っていたとしても、
鍵の作品を買うことはないだろうなあ。

28 :名無しさんだよもん:01/12/21 10:46 ID:jNZtSOhA
早く続きが読みたいage

29 :名無しさんだよもん:01/12/21 11:39 ID:ptXtTXA+
本物のKeyスタッフがこれ読んだら、どんな反応するだろ(w

30 :名無しさんだよもん:01/12/21 12:29 ID:hiZhNVVV
お、おもしれー。最高だよー。ageとこう。

31 :名無しさんだよもん:01/12/21 12:50 ID:5IMnOP+D
>>29
みんなが言っているのと別の意味で面白かった(YET11談)

32 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:04 ID:ivX836Yg
 消極的無神論者が最大多数を占めるすこの国でも、大きな変質を受けたとは言え、その日
が祝いの日である事に変わりはない。
 冬もようやく深まり、張り詰めた空気が緊張感を増して皮膚を刺すようになった十二月
二十四日。祝祭の雰囲気とは程遠い荒れた空気が、マンションの一室を支配していた。
 部屋の電気はことごとく消され、ケーキの生地を土台にしたろうそくが、か細くゆらめ
いている。こたつの上の灰皿は煙草の吸い殻で溢れ、カーペットにはアルコールの空き瓶
が散乱していた。
「クリスマスも一人。麻枝ちん無職引きこもりだから。が、がお」
「だからそのパターンは寒いから止めろっつーとんのじゃーっ!!」
 叫んで、ちゃぶ台返しをする。ケーキが空を舞い、ぐしゃりと床に叩きつけられた。
ろうそくの灯りは消え、部屋を暗闇が支配する。
「アホにターボがかかってきているな、俺も……」
 呆れ果てたように呟きながら立ち上がり、蛍光灯のスイッチを手探りで探す。壁の
スイッチを押し、瞬間的に部屋に広がる光に一瞬目が眩むと、乱雑を極める部屋の惨状が
光の下に明らかにされた。
 反転したこたつを元に戻し、潰れたケーキを拾い上げ、その上に置く。歪に崩れた
ケーキが自分にはお似合いな気がして、奇妙におかしかった。胸ポケットから取り出した
煙草に火をつけ、口にくわえる。ニコチンの味が肺を満たし、血管が収縮されると少し
だけ気分が和らいだような気がした。

33 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:05 ID:ivX836Yg
 会社を休んでから、もう三日になる。退職願を出した訳ではないので、おそらく
は入社以来一度も使ってこなかった有給休暇扱いなのかもしれない。勿論、会社側が既に
麻枝を解雇処分していれば有給休暇も何もあったものではないのだが。

「いつまでも変わらずにはいられない、か……」
 目の前でたなびく白煙を眺めながら、独り呟く。大学を卒業してすぐにこの世界に飛び
込み、休む事なく走り続けてきたような気がする。手当のつかない残業を気の遠くなる
ほど繰り返し、プライベートも全て犠牲にしてきた。好きでやっている仕事だったし、
今時そんな我がままが許される事自体がとんでもない幸運だ、と思う。だが仕事以外の
人間関係も殆んど無く、独り部屋で鬱屈する立場に陥ってしまえば、その幸福もただ
の妄想だったのか、と疑問を抱かざるを得ない。

(18禁がどうとか、全年齢がどうとか、そんな事はどうでもよかったんだ。ただ……)
 ただ、誰も自分に相談して来なかった事が、それが辛かった。keyの作風を方向付ける
重大な決定が自分抜きで行なわれる。それに衝撃を受けた。ちゃんと麻枝にも相談して
くれれば、あそこまで頑なな態度に走らなくとも、自分を納得させる事ができたはずだった。

34 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:06 ID:ivX836Yg
 煙草の火が根元近くにまで及んでいる。灰皿に押し付け、もみ消すと二本目に火をつけた。

(逆に言えばその程度の存在でしかなかった、という事か。俺も……)
 客観を気取った冷笑的な自虐に過ぎなかったが、真実のように思えた。
 keyのために麻枝は作品を作るのであって、麻枝のエゴイズムの体現のためにkey
がある訳ではない。麻枝のベクトルがkeyのそれとは異なる方向を向き始めれば、keyに
とって麻枝は不要であるばかりか、その過去の実績による発言力の大きさが害にさえ
なる事は、麻枝にも想像が付いた。

 直感から理論へ。センスからシステムへ。
 個人の能力に全てを託すスタイルは、その個人の能力の枯渇とともに容易く崩壊する。
雷鳴のような直感の閃きに全てを賭ける麻枝のスタイルは、当然不安定でむら気に左右
される。それが他のメンバーにとって大きな負担となっている事を麻枝も理解してはいた
が、だからといってCDを入れ換えるように作風を切り換える事ができるほど器用ではなかった。
 安定した創作能力を持つ涼元が参加した時点で、keyのメンバーが涼元のスタイルに
同調していく事は決まっていた事なのかもしれない。

 

35 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:06 ID:ivX836Yg
 ピンポーン。
 インターホンの呼び音が、思考の海から麻枝を引き揚げた。億劫そうに玄関口を見る。
(……ったく、宗教勧誘か? この年の瀬に、わざわざご苦労なこった)
 こたつを這い出てまで勧誘員の相手をするにはこの部屋は寒すぎる。麻枝は居留守を
決め込む事にした。
 ピンポーン。
 音は止まない。執拗にドアを開ける事を要求する。
 どんっ!
 音質が変わった。インターホンの無機質な信号音とはうって変わり、物理的な衝突音だ。
 ドアの向こうから大きな声が届いてくる。
「麻枝くーん、いるのは分かってるんだから出てきなさーいっ」
 どかっ!
 音が大きくなった。ドアの向こうの声の主が何者かは知らないが、あまり気の長い方
ではないらしい。
「さっさと開けないと本当に踏み破るわよーっ」
「やめんかぁっ!」
 慌てて玄関口へ飛び出し、ドアを開けると、そこにはしのり〜が立っていた。

36 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:07 ID:ivX836Yg
「それにしても汚い部屋ね。管理人さんに見つかったら、即効叩き出されるわよ」
 コートを脱ぎながら、しのり〜が呆れ果てる。
「やかましいっ。俺の部屋が綺麗だろうが汚かろうが、しのり〜には関係の無い話
だろ。それにこんな日に一体何の用だ? 金ならないぞ」
「誰が麻枝君からお金を借りようと思うのよ……」
 手にきちんと畳んだコートを抱えたまま、しのり〜はため息交じりで言い返す。
「ま、まさか体か? 聖なる恋人達の夜、独り身の寂しさに耐えかねた悪女が毒牙を
研ぎ……いやぁぁぁっ! 誰か助けてーっ!」
「やかましいっ! 誰が悪女じゃ、誰がっ!」
 ばきぃっ!
 左フックが麻枝の顎を捕らえた。
「ぐわっ、グーはやめろ、グーは」
「本当に、もう……」

 人一人やっと座れるくらいのスペースを開け、そこにしのり〜は腰を下ろした。正座
した膝元にはコートとマフラーが置かれている。
(本当に、一体何の用だ?)
 状況が飲み込めない。彼女が麻枝の部屋を訪れる事など、ついぞなかったからだ。
「麻枝君、風邪でもひいたの? 皆心配してるんだよ。三日も無断で休んで」
 本当に心配そうに、そう質問する。麻枝は脱ぎ捨てられた服の散乱するベッドに腰掛け、
煙草を口元でくゆらせた。

37 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:08 ID:ivX836Yg
 成る程、残留工作か。涼元さんでも、いたるでもなく、ほとんど中立の立場だった
しのり〜がその役に任じられるのは分かる気がする。
「風邪をひいてようが、ひいていまいが違いはないだろう。自宅謹慎の身だ。会社に
出られない事に変わりはない。もっとも、もう二度と出ないかもしれないがな」
 捨て鉢気味の麻枝の言葉に、しのり〜は色をなす。
「馬鹿な事言わないでよ。社長のあんな冗談を間に受けるなんて、どうかしてるわ」
「ふん、どうだかな。案外本気かもしれないぜ。『AIR』では相当無茶をやらかしたからな、
俺も。これ以上こんな問題児にkeyを任せてはおれない、と思ってたんじゃないか」
「そんな訳ないじゃない。麻枝君なしでkeyがやっていける訳ないでしょ?」
「本当にそう思ってんのかよっ! お前は!」
 怒鳴りつける声に、しのり〜は体をびくりと強張らせる。まだ煙を上げている煙草を
手で握りつぶすと、麻枝は立ち上がった。
「お前だけじゃない。いたるも、折戸さんも、皆そうだ。もう俺なんかいなくったって、
涼元さんがいるから大丈夫だ、と思っているんじゃないのか? 涼元さんに任せる方が
keyは良くなるって、そう思っているんじゃないのかよ?」
「麻枝君、あなた……」
「ろくに集団作業もできない出来そこないのシナリオライターなんかより、そりゃ
プロの物書き様の方がいいに決まってるだろうな。お前らは正しいよ。俺よりも
涼元さんを選んだ、お前らの判断はな!」

38 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:12 ID:ivX836Yg
 息を継がず、一気に捲し立てた。しのり〜は悲しそうな目で麻枝をしばらく見詰めて
いたが、やがて静かに言葉を発した。
「麻枝君が本気でそう思っているんだったら、あたしは麻枝君を軽蔑する。あたしが
一番見たくなかった姿を見せないで」
「……何だと」
「涼元さんに敵わないんだったら、敵うようになるまで諦めなければいいじゃない。
勝てないんだったら勝つまでやればいいじゃない。どうして逃げるの?」
「お前に何が分かる!」
「分からないわ。分かりたくもないわよ、負け犬の気持なんて」
「……もう一度言ってみろ」
 しのり〜の肩を掴む。きつい視線を麻枝にぶつけたまま、しのり〜は言う。
「何度でも言うわ。今の麻枝君は負け犬よ。涼元さんから、皆から逃げ出した」
「うるせぇっ!」
 そのまま肩を掴んだ手に力を込め、目の前の彼女を押し倒した。

39 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:12 ID:ivX836Yg
 三日間摂取し続けたアルコールが市街地に投下された焼夷弾のように、正常な思考能力
を跡形もなく焼き尽くしていたのかもしれない。いや、アルコールに責任を転嫁するのは
卑怯者のする事だ。
(今の俺が卑怯者じゃなくて、一体何なんだ?)
 愚かさと卑しさを極める所業に及ぼうとしている自分を、距離をおいて眺めるとそんな
自嘲が湧いて出てきた。組み敷かれ、俺の体の下で自由を奪われている彼女は欠片の動揺
も表情に出さず、黙したままきつい視線をぶつける。
 だが、押さえ込んだその肩から俺の腕にはっきりと伝わる震えが、それが虚勢である事
を伝えていた。予想外に華奢な体はとても毎日俺の頭を引っ叩いていた人間の体とは
思えず、手の平に感じる体温は暖かかった。その事に気が付くと、抑えがたい加虐衝動が
鎌首をもたげた。息が肌に触れそうな近さまで、彼女の顔に自分の顔を近づける。

 声が聞こえ、俺は硬直した。
「……どうしたのよ? やりたいんだったらやりなさいよ。麻枝君がしたいんだったら、
すればいいでしょっ」
 瞳に涙を浮かべ、それでも視線を反らさない。
「好きでもない女を押し倒して、キスして、抱いて。それで麻枝君の気が済むんだったら、
やりなさいよっ。それで麻枝君がkeyに戻ってくるんだったら、何だって構わないわよっ!」
 涙は溢れ、頬を濡らしていた。俺は心の中心の核の部分から粉々に打ち砕かれたような
気がして、彼女から手を離し、ふらふらと立ち上がった。
 彼女もゆっくりと体を起こし、指で涙を拭った。

40 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:13 ID:ivX836Yg
 しのり〜は立ち上がり、乱れた衣服を整えている。麻枝はそんな彼女を見ようともせず、
ただ俯いていた。コートとマフラーを左腕に抱え、しのり〜は麻枝のそばに近づく。
「麻枝君」
 赤い瞳で麻枝を見据え、言う。はっとしたように麻枝も彼女を、見た。

 ぱんっ。

 乾いた音が室内に響き、すぐに消えた。
 しのり〜の右の手の平と、麻枝の左頬が、同じ痛みを共有する。

「あなたを」
 手の平にひりひりと痛みを感じながら、言葉を絞り出す。
「あなたを好きにならなければよかった」

 振り返り、玄関口へ向かう。靴を履き、ドアを開ける。
 雲ひとつない空を、温もりのない月が照らす。
 冷たい風が吹き付け、頬の涙を凍らせた。

41 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:46 ID:s/UO4//S
おお、新作があがっている。
普段は何となく地味なしのり〜が重要な役どころになってきそうですな。
てか、徹夜明けのテンションで読むには今回の話は少々こっぱずかしい(;´Д`)

今後の展開が楽しみなので、頑張ってください。

42 :名無しさんだよもん:01/12/22 09:51 ID:QpKl9aRs
燃えだ。ダメ人間は好きだ。もっと叫びたいのだが恥ずかしいのでやめる。

43 :名無しさんだよもん:01/12/22 13:07 ID:B9oRPQhJ
実に良い
ダーマエの今後の動向に大チューモクである

44 :名無しさんだよもん:01/12/22 15:30 ID:6EdOG7PW
続きとか勝手に書いて良いのかな……
非常に書きたくてたまらねえあげ。

45 :名無しさんだよもん:01/12/22 15:45 ID:cxtJHp6T
>>44
もともとリレー小説だしいいんじゃないかな?
これまでには分岐することもあったと思うんで、元の執筆者の思惑と違っても構わんだろうし。

46 :名無しさんだよもん:01/12/22 15:58 ID:QpKl9aRs
これがあがってたら間違いなくハラダVS麻枝戦は勝てたろうに…
惜しまれる。

しかし過ぎたこと言ってもどうにもならん。
何より熱い。マンセー。

47 :R:01/12/22 23:12 ID:6DefUydt
久しぶりですね。同時に復活おめでとうございます!
ここ近頃書いていないのは社会人としての生活が忙しいのと+多少の手詰まりを
感じてしまったので・・・
(やはり葉以外は情報がないので表現に限界を・・・)
とりあえず、孤軍奮闘的な10月を超えてまた活性したことは喜ばしい限りです。
また、暇ができたら書きますね。

44さんへ>
誰がかいてもいいと思います。俺も最初からって訳じゃないですし・・・
大いに盛り上げてくださいませ。

48 :名無しさんだよもん:01/12/23 17:13 ID:GgzjJBu1
今回の新作、誰彼編の「三人目の防衛者」
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/974/974402008.htmlの413-421)
を思い出したよ。久弥と行動がかぶる麻枝萌え。
やっぱ麻枝を立ちなおさせるのは、久弥であってほしいな。
俺の中じゃこの二人は、「振り返れば奴がいる」の司馬と石川みたいな関係だから。
(ちなみに涼元ちんは中川部長。)

49 :名無しさんだよもん:01/12/23 18:08 ID:UrG+9OUS
最後刺されて終わりですか?(w

50 :名無しさんだよもん:01/12/23 18:36 ID:GgzjJBu1
>49
刺す役はもちろん超先生で(w

51 :名無しさんだよもん:01/12/23 21:14 ID:I+XyNEVC
今ようやく誰彼の葉鍵編を読み終わったところ
にしても、永遠の遁走曲篇がdat落ちしていることが心底悔やまれる
…鬱だ

52 :ん? :01/12/23 22:41 ID:BLLzlvox
これか? >>51
Leaf&Key仮想戦記〜永遠の遁走曲篇〜
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/989/989927173.html

53 :名無しさんだよもん:01/12/23 23:05 ID:I+XyNEVC
>>52
おぉ、神よ
マジで感謝
今から読みまくりますage

54 :44:01/12/25 01:23 ID:FIEO1cYe
やっぱ無理だ……書けないっす(;´Д`)
もう少し精進する事にします。

55 :名無しさんだよもん:01/12/25 02:53 ID:z5ThiQix
がんばれ

56 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:12 ID:G+WQnEiE
「あ、それも包んでください」
 クリスマスも終わり、ようやく歳末の雰囲気も色濃さを増した街で、吉沢務はケーキ屋
の店員に注文を付けていた。クリスマスにケーキを食べるのは馬鹿馬鹿しいが、値段の
安くなった売れ残りのケーキを買うのは経済的だ、というのが吉沢の合理性だ。
 紙製の箱に色とりどりのケーキを詰めてもらい、吉沢は店を出た。冬の空気は刺すよう
な冷たさを増しているが、歳末独特の慌しい熱気がそれを吹き飛ばしている。世間一般
のタイムスケジュールからはいささか逸脱した身ではあったが、年の瀬ともなればある種
の感慨に浸る自分がいることに、吉沢は気が付いた。

 多くの人間と出会い、そして同じだけ多くの別れを体験してきた。悲嘆に暮れる時も
あったし、憤怒に打ち震える日もあった。だが悲しみも怒りも過ぎてしまえば思い出の
アルバムを飾る、貴重な写真だ。荒波のように起伏に満ちた日々が、吉沢に年不相応な
達観を与えていた。

57 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:12 ID:G+WQnEiE
 木の葉を巻いて、風が舞う。冷たさに肩をすくめると、人々の間を縫って足早に帰路
を急いだ。男達の怒鳴り声が人ごみの中から響いてきた。気ぜわしい年末にありがちな
若者達の他愛も無い衝突だろう。野次馬根性で見物する気もなかったが、声のした方角
が丁度帰路と同じ方角だったため、吉沢は自然と近づくことになった。

 想像を超えた大喧嘩だった。十人はいる。道端に転がり、悶絶している男達も既に
数人いた。とばっちりを食うことを怖れた群集が輪を作ってその有様を傍観している。
吉沢は輪の中に入り、観客の一員になると、驚いた。
 喧嘩に参加している男達は優に十人を超えていたが、相手は一人だったからだ。男達
は十人がかりでたった一人を相手にしていることになる。地面に寝転んでいる若い男達
もその仲間だとすれば、押されているのは十人の側なのだろう。事実こうしている
今でも、また一人叩き飛ばされ、地面を這っている。
 内心舌を巻きつつその光景を眺めていた吉沢だったが、たった一人で大立ち回りを
演じている人間の顔を見ると顔色を変えた。遠巻きに輪を作る人ごみをかき分け、騒動
の中心に駆け寄った。

58 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:13 ID:G+WQnEiE
 義侠心などではなかった。正義感や公徳心などでも勿論ない。そうしたものから最も
かけ離れた人間が今の自分だ。鏡に映った自分を殴っているのと変わらない。
 そう思いながら、麻枝准は懲りずに掴みかかってくる若者の鼻っ柱を力いっぱい殴り
つけた。潰れたような悲鳴をあげ、若者が地面に転がる。麻枝を取り囲んでいる男達
は予想外の展開に色を失った。

 この日も、麻枝は当てもなく夜の街をさまよっていた。外出しても行く先などあり
はしなかったが、家の中でどうしょうもない自己嫌悪に苛まれるよりはましだった。
 道に溢れる人に半ば辟易しながらも、ふらふらと歩き回る麻枝の目の前で若い男達
が一人の女に絡んでいた。よくある光景だ。怖い物知らずの若者達は、自分達に手に
入らない物などないと自信満々なものだ。かっての自分がそうだったように。
 麻枝は関わり合いを持つまいとその場を離れようとしたが、絡まれた女の悲鳴が
聞こえると怒りがこみ上げてきた。力ずくで女を手込めにしようとする男は許しがたい
卑劣漢だ。自分にそれを怒る資格などないことは分かっていたが、それだけに尚更
怒りを抑えることができなかった。
 遠巻きに眺める群集をすり抜け、麻枝は若者達に近づく。数人程度であればハッタリ
の一つでもかませばどうにでもなる。そう考えていたのだが、若者達の交友関係は
思ったより広かった。いつのまにか麻枝は十人を超す男達に取り囲まれていた。

59 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:14 ID:G+WQnEiE
 群れをなさないと啖呵も満足に切れない街のチンピラと麻枝とでは勝負にならない。
仲間の半数を倒され、若者達は恐慌を呈し始めていた。正義漢ぶった勘違い野郎を
袋叩きにするはずだったのに、逆にこちらが叩きのめされそうになっている。若者
の一人がズボンの後ろポケットからナイフを取り出した。震える手で柄を握り、刃を
麻枝に向ける。安っぽい加工の施された刃の表面がネオンの光を反射してきらめいた。
 刃を向けたまま麻枝に突進しようとした若者は、何者かに背中から蹴りを入れられた。
勢い良く吹き飛ばされ、麻枝の足元まで転がり失神する。
「こんな所で何遊んでいるんだ、麻枝!」
 自分の名を呼ぶ声に反応し、振り向くと吉沢が片手にケーキ屋の紙箱を抱えながら
若者に蹴りを入れていた。思わず叫び返す。
「吉沢さんこそ何でこんな所にいるんですか!?」
「俺の家が近くにあるからだ。それより、このガキどもといつまで遊んでいるつもり
だ? そろそろ警察が来てもおかしくないぞ」
 ケーキの箱を大事に抱えながら、吉沢は殴りかかる若者達を足であしらっている。
吉沢の言葉の通りに、パトカーのサイレン音が近づいてくるのが麻枝の耳にも聞こえた。
「逃げるぞっ、麻枝!」
 吉沢に腕を掴まれ、麻枝は引きずられるようにして喧騒の中心から逃走した。

60 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:15 ID:G+WQnEiE
「……ったく、何あんなガキ相手に本気になっているんだ。大人気ない」
 部屋の丁度中心に置かれたこたつの上にケーキの紙箱を置きながら、吉沢は呆れ
果てる。それには応えず、麻枝は所在なげに吉沢の部屋に立ち尽くしていた。
 ほこり一つなく整理整頓された部屋は、無機質な冷たささえ感じさせたが、一角に
置かれたピアノが吉沢の人となりを主張しているように見えた。
「そんな所に突っ立ってないで、座れ。でかい図体が目障りだ」
 麻枝は黙って腰を下ろす。吉沢は食器棚から二つ湯のみを取り出す。ポットから常時
沸かしてある熱湯を湯のみに注ぎ、茶を点てた。
「ケーキしか食うものはないんだが、まぁ食いたければ食え」
 湯気を立てている湯のみをこたつの上に置きながら、吉沢も腰を下ろす。
 麻枝は何も語らず、沈黙を貫いている。吉沢も自ら話し掛けようとはしなかった。
 こたつの上で二つの湯のみが白い水蒸気の煙を吐き出している。言葉で埋めることの
できない空間が、麻枝と吉沢の間にかって存在した軋轢を物語っていた。

「……Tacticsは辞めたんですか、もう」
 ぽつりと麻枝が口を開く。湯のみを片手にケーキを食べていた吉沢は、事も無げに答えた。
「あぁ、色々とやってはみたが、どうにもならなかったな。最後は依頼退職だ。クビだよ」
 平然と答えてはいたが、数え切れない程の辛酸を舐めつくしたはずだった。麻枝達主要
メンバーを一度に失い、そこからなおTacticsを回復させようとあらゆる努力を試みながら、
結局は徒労に終わったのだ。そして石で追われるように追放された。
 その原因を作ったのは他ならぬ麻枝である。吉沢の現在の苦境は麻枝の離反が発端で
あった。
「出入りの激しい世界だ。クビになったからといってどうということもない。商売になる
ネタさえあれば、またいくらでも出直せるさ」
 吉沢はどこまでも気楽な調子で言う。

61 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:15 ID:G+WQnEiE
「吉沢さんなら……どこに行っても通用しますよ」
 力無い麻枝の言葉に、吉沢はからからと笑ってやり返す。
「それならkeyに音楽屋としてでも拾ってもらうか。お前のコネで馬場社長にねじ込めないか?
こう、ぐいっと」
 吉沢は拳を握り、ねじるようにして麻枝の胸元に突き出す。麻枝は何も答えない。
吉沢の軽口にも何の反応も示さず、俯いたままの麻枝を見て、頭を掻いた。
「お前なぁ、色々あるんだろうが、お前がそんな辛気臭いことでどうする。それでも
keyのチームリーダーか?」
「……もう、違いますよ」
 そう、自嘲した。吉沢はその様子にただごとではない何かを感じ、麻枝の言葉を待つ。
お互いに違う道を歩んだ空白の時間を埋めるように、麻枝は訥々と言葉を繋いでいく。

 樋上いたるを切ろうとした上層部に反発し、Tacticsを飛び出した日の決意。『Kanon』
で勝ち取った名声、失った同僚。新たな同士を得、身を削るようにして創り上げた『AIR』。
 時には帷幕から指令を送る指揮官のように、時には前線で泥にまみれて銃弾の雨の中
を這いずり回る二等兵のようにkeyを守り、戦い、育ててきた一人の男の歴史が語られて
いく。
 そして最後に、keyに居場所を失い、こうして独り彷徨っている今を伝えた。
「俺は一体今までなにをやってきたんですか」
 最後の言葉は、殆んど泣かんばかりにして言った。

62 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:16 ID:G+WQnEiE
 吉沢は何も言わない。何も言わず立ち上がり、部屋の片隅に置かれたピアノへ近づく。
鍵盤の前の椅子に座ると、静かにピアノを弾き始めた。吉沢の指が鍵盤に触れると、
手入れの行き届いたハンマーが弦を叩き、音色を発する。吉沢の指の動きに応えて、
弦は音を奏で、曲を紡いだ。
 奏でられる音楽は、麻枝のよく知っているものだった。いや、よく知っているという
だけでは不十分だった。今、吉沢の弾いている曲はかって麻枝自身が生み出した曲だったからだ。

 輝いたあの季節を懐かしみ、最後まで笑っていたあの子供達を慈しみ、届かないあの
飛行機雲を追いかけた、過ぎ去りし夏の面影を麻枝は伝えようと願ったのだ。五線譜
に書き写した三分足らずの音の世界に全てを託して。

「『夏影』か。いい曲だ」
 ピアノを弾きながら、吉沢は短く呟く。指が静かに鍵盤に触れると、音色は部屋を満たした。
その音色が乾いた心に沁み込むようで、麻枝は胸が潰れそうになった。麻枝を憎んでいる
はずの吉沢が自分の楽曲を奏でていることが、道を分かったはずの吉沢が今なお麻枝の
想いを汲もうとしてくれていることが痛みを伴って麻枝の心を締め付けた。

 麻枝は両手で顔を覆った。泣いた。声を洩らさず、こみ上げる嗚咽を懸命に押し殺して、
それでも涙はとめどもなく頬を濡らした。そんな麻枝に、吉沢はただピアノを弾き続ける。
 同僚への不満、周囲への憤懣、そして自分への嫌悪が今、涙とともに洗い流されていく
のを麻枝は感じていた。

63 :名無しさんだよもん:01/12/25 09:46 ID:mTLBntbC
キタ━━(゚Д゚;)━━!!!!!!!!!!!!!!!!!

64 :名無しさんだよもん:01/12/25 11:13 ID:HS7iIxEP
……泣いていいですか?

なんかスゲェ、涙腺直撃っす。

65 :名無しさんだよもん:01/12/25 16:30 ID:W9SFkcSL
ボス、かっこよすぎイイ!(・∀・)

66 :名無しさんだよもん:01/12/25 17:26 ID:ot8f15qn
YETボスサイコー。

67 :名無しさんだよもん:01/12/25 19:09 ID:bagig9YQ
ボス……本物はエレクトーン11級なのに(w

68 :名無しさんだよもん:01/12/25 19:21 ID:0IXgD4j4
か、かっこええ……。

69 :名無しさんだよもん:01/12/25 19:47 ID:vitVLNvD
ボス11級って…
普通こういうのって10級から始まって9→8→って進級するよね?
まあネタかな。
ヤマハエレクトーンのホームページ
ttp://www.yamaha.co.jp/product/el/

70 :名無しさんだよもん:01/12/25 20:42 ID:lOWKxE/i
>67
激しくワラタ

71 :名無しさんだよもん:01/12/25 21:08 ID:Q9KI19xe
感涙号泣age

72 :名無しさんだよもん:01/12/25 23:37 ID:XTRvizVy
ホンキでナケタ…

73 :名無しさんだよもん:01/12/26 00:17 ID:rPwufsfB
この辺の事情を読んだことある者は尚のこと泣ける。
マジでイイ!(・∀・)

>>69
詳しい話は忘れたけど、ボスがエレクトーン11級ってのは実話だったはず。

74 :名無しさんだよもん:01/12/26 01:03 ID:XPgCVaJR
>>69
とった級がネタかどうかは知らないけど
「Y」AMAHA 「E」LEC「T」ONE 11級
略してYET11なのはホントの話。
大昔の話らしいけどね。
ついでにボスは今でも楽器はひけないらしいです。

75 :名無しさんだよもん:01/12/26 14:52 ID:5cDbrxmW
うう……やっぱ及ばない……ここまで差があるのか……
なんで涙が溢れてくるんだよ……吉沢さんウワァァァァン!!

76 : :01/12/26 14:59 ID:KVr+7MlW
 クリスマスが終っても、麻枝は吉沢に部屋に入り浸っていた。
「おい、会社のほうはいいのか?新作の制作が佳境に入っているころじゃないの
か?みんなも心配しているぞ」
「いいんですよ、会社なんて。僕がいなくても他のメンバーで十分やっていけま
すよ。今頃、ぼくの心配なんかより、コミケのことで頭がいっぱいですよ…」
 クリスマスの晩、不満憤懣そして自分への嫌悪が吉沢の演奏によって洗い流さ
れたとはいえ、いったん飛び出した麻枝は引っ込みがつかなくなっていた。吉沢
はそんな煮え切らない麻枝を怒鳴りとばしたい気持ちだったが、ここで強圧的な
態度をとっても意固地になるだけだろう。そこでPCを起動し、あるところにメール
を出し、翌日、電話でコンタクトをとった。と、またも麻枝が部屋に入ってきた。
「ん、なにしていたんですか、吉沢さん」
「うん、まあ再就職活動といったところだ。フリーではさすがに限界を感じてき
たからな」
「ふーん。ぼくはフリーのほうがいいと思うけどなあ。で、どうなんですか」
「急な話だが、年明け早々にも来て欲しいそうだ」
「どこなんですか?」
「KEYだよ」
「なんですか、それ非道いじゃないですか!ぼくの気持ちを知ってるくせに…!」
「麻枝、人間は自分を必要としてくれるところに行くものだ。KEYはオレの力を必
要としてくれている。それだけだ」
 麻枝は、吉沢のその言葉が終わるか終わらないうちに部屋を飛び出しいった。

77 : :01/12/26 15:00 ID:KVr+7MlW
 年が明けて、KEYの開発室。仕事始めの日である。麻枝が抜けたことで新作の制
作は停滞していた。年末ということもあってか、今まで制作状況の確認と来年のス
ケジュールの調整、コミケなどのイベントで麻枝が抜けたことを忘れようとしたが、
今までリーダーだった麻枝がいないことによる停滞は隠しようがなかった。
 と、開発室に社長が入ってきた。年始の挨拶かと思ったが、社長は一人、男を伴っ
ていた。ほとんどのメンバーには旧知の顔だった。
「あー、今年もよろしく。ところで、新しい仲間を紹介しよう。知っている人もい
るだろうが、吉沢務君だ。彼にはいままでの経験を生かして、プロジェクト全体を
見てもらうつもりだ」
「社長、リーダーは麻枝君のハズでしょう。どういうつもりなんですか!」
しのり〜が声をあげる。
「いや、しかし麻枝君にはメール、電話をしても連絡がつかんのだよ。とりあえず、
有給扱いにしているが、それもいずれ無くなる。雑誌、インターネットで発表した
からにはこれ以上の停滞は許されん」

 その日から、吉沢は精力的に動いた。涼元らの初顔合わせのメンバーともすぐに
うち解け、旧知のメンバーとはわだかまりを残しつつも、制作はいままでの停滞を
取り戻すかのように、いやそれ以上のペースで順調に進んだ。麻枝が担当するはず
だったシナリオ以外は。
「渚シナリオなんですが、私か魁さんが書くんでしょうか。それとも吉沢さんが?」
「うん、まあ、その部分は考えていることがあるんだ」
「それでも他ルートのシナリオを重なる部分がありますし…」
「そこのところは適当に、というか、ちょっと待っていてくれよ」
 涼元は少し不満だったが、そこで引いた。受賞歴もあり、単行本も出したことも
ある作家とはいえ、ゲームの制作に参加したのはAIRしかない涼元には、数多くの
作品を制作した吉沢に教えられることが多かった。しかし、制作が進み、ゲームの
全体像が見え始めた今になっても麻枝が担当するはずだった部分の担当を割り振ら
ない吉沢の態度は不自然だった。

78 : :01/12/26 15:01 ID:KVr+7MlW
 そして、発売日が決まり、マスターアップの期限も決まった。が、その時を境
に吉沢が豹変する。突然の仕様変更、決定稿のはずの原画へのダメ出し、折戸
が作曲した曲は原型を無くしてしまうほどに編曲した。そして相変わらずメイン
となる渚シナリオには手もつけていない状態であった。制作が大混乱に陥り、休
日出勤の連続であった。スタッフの怒りが爆発しようとしていた日曜、休日出勤
で朝一番で出勤したみきぽんがPCを立ち上げると、大量のウンコフォルダが!他
のスタッフのPCも同様だった。そしてメールサーバには吉沢からのメッセージが
残されていた
「ハッハッハッ、誰がテメーらの青臭ぇゲーム作りなんか協力するかよ。最初っか
らこうして、混乱に陥れるのが目的だったんだよ。思い知ったか。これであのとき
の復讐がようやく果たせて清々したぜ。俺はこれからバハマでバカンスを楽しむ
とするか。じゃあな、ハッハッハッ」

79 : :01/12/26 15:03 ID:KVr+7MlW
 一方、時を同じくして麻枝は吉沢の部屋を訪ねていた。麻枝は吉沢の部屋を飛
び出して以来、荒んだ生活を送っていたが、さすがに吉沢にだけは謝っておこうと
思った。しかし、部屋はもぬけの殻だった。
 正確には部屋の中に古いPC98がポツンとあった。起動するとガチャンガチャン
とフロッピーディスクにアクセスする音が部屋に響いた。MS-DOSが立ち上がると、
AUTOEXEC.BATで自動的に演奏ソフトが起動し、今では携帯電話の着メロにも劣る
FM音源で曲を奏でた。これは、青空!?…そして麻枝はフロッピーディスクの挿入
口に挟まれていた手紙を発見する。

「麻枝、なにも言わずにKEYの開発室へ行け。そこにはお前を必要としてくれる人
たちがいる。人間は自分を必要としてくれる人のために生きるんだ。俺はしばらく
旅に出るよ。ゲームの制作を大混乱に陥れた張本人とお前が仲良くしているんじゃ
あ、お前まで疑われるからな。長い旅になるだろう。けれどお前のことは忘れない。
いつかどこかで出会うかも知れないけどな。体に気を付けろ。じゃあな 吉沢」
 吉沢さん、オレのために憎まれ役を…麻枝は静かに手紙を読んだ。二度も三度も
繰り返し読んだ。手紙が涙でぐしゃぐしゃになり、文字が判読できないほど滲んで
いた、それでも麻枝は手紙を読み続けた。

80 :名無しさんだよもん:01/12/26 15:48 ID:G4/xA3O2
なんつーか・・・えらく展開がはやいな・・・
まぁリレー形式だからしょうがないけど。

81 :名無しさんだよもん:01/12/26 22:01 ID:1LqI8GNy
…つか、コレって泣いた赤お(以下略)

82 :名無しさんだよもん:01/12/26 22:17 ID:Z6qBdrfm
…つか、クラナド発売まで時間飛ばしたらあかんやろ…

このスレ、リレー縛りきつくないよね?同時並列世界だよね?
前もそんな感じだったし

83 :名無しさんだよもん:01/12/27 02:10 ID:NBLS1P8o
>82
ええ、また別の展開を書かれるのならそれも大歓迎です。

84 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:04 ID:DpV0X/wK
「ぐぁ……なんちゅう人の数だ」
 立錐の余地もないほどに密集した人ごみに巻き込まれながら、麻枝准は呻き声をあげた。
 ここ有明の地は一年に二度だけ、日本で最も多くの人が集まる祭りの場と化す。
 コミック・マーケットと呼ばれるその祭典の会場に、麻枝は生まれて初めて足を運んで
いた。会場は人々の雑然とした熱気に満ちて、季節が冬であることを忘れさせた。
 人ごみに当てられ、乗り物酔いのような不快感が胃の奥からこみ上げてくるのを感じ
ながら、麻枝は自分にこの場に足を運ぶことを勧めた男を少しだけ恨めしく思った。

「まだこの業界でやっていく気があるんだったら、コミケにでも行ってみろ。会社の中
からだけでは見えないものが見えてくるぞ。今の麻枝に必要な人がいるかもしれない」
 吉沢の言葉だった。あれだけのことをしてしまった以上、今更keyに戻る訳にはいかない。
 だがあの日、自分でも驚くほどの涙を流した後、一つの真実が残ったのだ。
「まだ、何かを創りたい」
 灰燼と化した未来の残骸の中に、崩落した過去の廃墟の底に見出した、たった一つの夢
の絵姿。心の奥の炎は今なお消えずに、麻枝の背を押している。その火が消えるまでは、
まだ終われない。

(だからと言ってこれではたまらんぞ。そもそもコミケなんか……)
 立ち止まることを許さない人々の濁流に飲み込まれつつ、麻枝は内心愚痴った。
 大学を卒業してすぐにプロとしてキャリアを積んできた麻枝は、同人活動というものを
今までに一切行なった事がない。18禁ゲームの業界では同人活動をステップにプロとして
活躍する者も少なくないし、プロとして活動する傍ら同人活動を行なう者も多い。
 だが麻枝のプロ意識はそうした余暇としての創作を許さなかった。同人創作を商業創作
の下に置く意識が麻枝にはある。ここに自分の必要とするものがあるとはとても思えなかった。

85 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:05 ID:DpV0X/wK
 人ごみに押し出され、弾き出され、ふらふらになりながら麻枝はようやく人気の少ない
ところで一息をついた。深呼吸をして、新鮮な空気を肺に送り込む。あくびをして大きく
背伸びをした麻枝のコートの裾を何かがくいくい、と引っ張った。
「んが?」
 口を大きく開いたまま、麻枝は疑問の意を発する。引っ張られたコートの裾に目をやる
と、少女が涙目でこちらを見上げていた。
 小さな少女だった。幼女と言ったほうがいいかもしれない。麻枝の腰のあたりの高さ
から麻枝の顔を見上げている。黄みがかったブラウンのダッフル・コートに身を包み、
ミトンをはめた小さな手で麻枝のコートの裾を離さない。肩にかかる程度に切り揃え
られた髪につけた赤いカチューシャが一層幼い印象を与えた。

「どうした? ガキの頃からこんな所に出入りしてたら、ロクな大人になれないぞ」
 少女はぷるぷるとかぶりを振る。
「……おかあ……さん」
 大きな瞳から涙がこぼれる。麻枝は体を屈め、少女の目線と同じ位置で話し掛けた。
「もしかして迷子になったのか?」
 カチューシャが縦に揺れる。麻枝は呆れ果てたように深々とため息をついた。
「……ったく、こんな所に子供を連れてくる親も親だな。何か間違いでも起こったら
どうするつもりなんだ」
 しゃがんだ体勢のまま、少女に背中を向ける。
「ほら、乗れ」
 麻枝の言葉に少女はどう応えていいか分からず、立ちすくむ。麻枝は業を煮やしたよう
に続ける。
「お母さんを探すんだろ。俺が肩車してやるから自分で探せ」

86 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:05 ID:DpV0X/wK
 長蛇の列をなしていた客のピークも一段落を迎え、久弥直樹はようやく人心地をついた。
今回初めて出展した自作の小説の売上は上々だった。key時代に得た支持層が主な客層
だったとはいえ、第二の人生の門出としては悪くない。この調子で地道に活動を続けて
いくことができれば、それに過ぎるものはないように思えた。

 二年前keyを離れて以来、久弥は潜伏を余儀なくされていた。モチベーションの低下
もさることながら、離れてなお巻き込まれるkey絡みのトラブルに振り回され続けた。
だが波乱と動揺を繰り返したkeyも今ではすっかり安定を取り戻したようで、新作の発表
も行なわれている。麻枝達の前途は洋々に見え、久弥は安堵した。
 次は自分の番だ。key時代の過去を捨て、これからの人生を自分の力で切り拓いて行く
んだ。そんな決意に心を引き締めた。

 販売スペースには客の姿はもうない。知り合いのサークルに顔を見せに行こうと、
売り子用の椅子から立ち上がった久弥に、見知らぬ女性が声を掛けてきた。
「あ、あの。すいません」
 女は頬を赤らめ、上気した様子で久弥に話し掛けてくる。どもった話しぶりから、
彼女が相当に動転していることが伝わってきた。
「ここに女の子が来なかったですか? 私の娘なんです。背はこのくらいで」
 そう言いながら自分の胸の少し下の高さに手の平をかざす。
「いえ……そんな娘さんは来てはいませんけど」
「そうですか……こんな人の多い所で迷子になって、一体どうしたら……」
 女は半ばパニックに陥っていた。

87 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:06 ID:DpV0X/wK
「落ち着いてください。ちゃんと探せばすぐ見つかりますよ、僕も手伝います」
 久弥の言葉に、女は辛うじて平静を取り戻す。言い聞かせるように久弥は続けた。
「それで、その娘さんはどんな格好をしておられるんですか? 目立つ特徴とかが
あれば教えてください」
 女は顔を上げ、少しだけ嬉しそうに口を開く。
「あゆちゃんの格好をしています」
「あゆちゃん?」
 おうむ返しに返事する久弥に、女は説明する。
「はい、『Kanon』のあゆちゃんです。とても可愛いんで、久弥さんにも見てもらおうか
と思ってたんですけど……」
 寂寥感が小さな棘のように、久弥の心を刺す。二年以上も昔に自分の創った物語の
キャラは未だに愛されている。その事を嬉しく思う反面、もうあの時は帰ってこない
のだ、ということを思い出させられた。

88 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:07 ID:DpV0X/wK
 遠目には人の海の上を少女がサーフィンしているように見えるかもしれない。
 麻枝の肩車に乗った少女は人ごみから体一つ分だけ浮いていた。
「おーい、見つかったかー」
 頭上の少女のバランスを崩さないように慎重に歩きながら、麻枝は問う。
「ううん……いない……」
 頭の上から声がする。麻枝はため息をついて子供連れの女性のいそうな所を歩き回った。

 くいくい、と髪の毛が引っ張られた。
「お、見つかったか?」
 ようやくこの苦役から解放されると思い、声を弾ませる。だが、頭の上からは期待
した言葉は降ってこなかった。
「トイレ……」
 消え入りそうな声が頭の上から聞こえる。その言葉の意味を考えた麻枝は、自分が今、
絶体絶命の死地にいることをすぐに悟った。
「トイレって、しょんべんか? 大きい方か? いやどっちでもいい。っていうかよくないっ」
 肩車に乗った少女の体が震えている。
「ぐぁっ、首を締めるなっ」
 足を閉じ、下半身に力を入れて懸命にこらえようとしているようだった。足を閉じよう
とすれば必然的に麻枝の首を締めることになる。便意をこらえるには不向きな姿勢だ。 
「もうちょっと我慢しろ。すぐトイレに連れて行ってやるから、な?」
 だがコミケ会場を初めて訪れた麻枝が会場の地理に詳しい訳がない。しかもこの人ごみ
では周りの状況もよく見渡せない。
「うぐっ……」
 頭の上で呻き声が聞こえる。少女の震えは大きくなり、麻枝の髪の毛にぽたりと涙が
一滴落ちた。涙ならまだしも、あんなものを頭にぶっかけられてはたまったものではない。
「おわーっ! トイレはどこじゃーっ。トイレトイレトイレーっ!」
 麻枝の悲痛な叫びが、会場に響き渡った。

89 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:07 ID:DpV0X/wK
「おわーっ! トイレはどこじゃーっ。トイレトイレトイレーっ!」
 男の叫び声が久弥の鼓膜を震わせる。目の前の女もその叫びに反応し、声の聞こえた
方角を向いた。久弥と女が顔を向けたその先には、何故か人々の頭の上の高さに少女が
いた。
「あ、あそこです。あそこにいるのが私の娘です!」
 女が叫び、走り出す。久弥もそれを追い、販売スペースを飛び出した。
 人ごみをかき分け、少女のいた場所へ駆け寄る。
 偶然か、それとも必然か。
 久弥はそこで、もう出会うはずのなかった男と再開した。
 そしてそれは激動の新時代の、ほんの序幕にすぎなかったことを後に久弥は知る。

90 :名無しさんだよもん:01/12/27 09:11 ID:DpV0X/wK
>>76-80
ゴメン、分岐させて。最終的にはその結末になると思うんだけど、そこに
辿り着くまでの過程が書きたいんです。

91 :名無しさんだよもん:01/12/27 14:06 ID:HUy1hnNt
>>84-89
ぐぁー、続きが気になるー!

92 :名無しさんだよもん:01/12/27 14:11 ID:DBqzlEjQ
俺も気になる!特にょぅι゙ょの放尿シーンがっっ!!(w

93 :風呂っ子2号:01/12/27 19:58 ID:V3AJgFj6
(;´Д`)ハァハァ

94 :7つ ◆ffU3G94s :01/12/28 10:35 ID:/8rnyzXI
年末age アイモカワラズモエマス。

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